目白からの便り

やまと絵 先行者の恩恵をどう活かすか 場所と空間の効力 その2/3

副題:「守破離(しゅはり)」の価値を大切にする

こうした活用方法は、業務標準書などの手順書のような活用の仕方があったかもしれないと空想すると経営的な視点でも興味深い。文字だけでなく、絵画を活用して次世代へ伝承していくというのは、極めて新鮮で、当時としてはとてもイノベーティブな試みであろう。言語情報だけでなく画像情報の活用は新たな情報伝達メディアであったであろう。企業内で定められた品質管理規定がそれを許すのであれば、現在であれば、さながらクラウド型の動画情報も貴重な技術・技能伝承のツールになり、立派な標準書、手順書になり、そのまま、次世代人材の為の人材育成の貴重な手引書になりうると感じる。

同じように少し前に、歌舞伎座で歌舞伎を鑑賞したことを思い出す。演題は、一条大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)であったが、その主人公の大蔵卿は、顔に真っ白なおしろいを塗り、挙動も滑稽である。本心を見せないよう、阿呆を演じて、当時の権力者である平家を欺くという役柄である。

その姿は、亡くなってしまった志村けんさんの持ち芸である「ばか殿」を思い出す。実際に志村さんは、「ばか殿」のアイデアは、この歌舞伎の演目から生み出されたと述懐している。現在のコントといわれる芸事も、古来の伝統芸である歌舞伎を由来にしているかと思うと積み重ねの大切さを実感する。

学術的な研究者もしかりである。研究者が自己の研究を質高く行う上で、研究者自身を鼓舞し、真理に近づこうと試み、社会への貢献に配慮し、国際的に関係者と共有していく献身性をその研究テーマに据えて取り組んでいく(青島編, 2021)。
そして、そのプロセスはまさに先人たちの先行研究を丁寧に調べ、整理し、考察し、その上で独自の対抗理論を考案し、研究成果を明らかにしていく。芸事の世界においても、先達の偉業を大切に受け継ぎながら、その時代時代に合わせて発展させていくことの繰り返しなのだと思う。

芸事の世界の言葉に「守破離(しゅはり)」がある。最初は、お師匠様の教えを忠実に守り、その後、その流儀を超える世界観を持つように成長し、そうして、独自の流儀を確立し、自分自身の流派を創り上げていくということである。人材育成の成長プロセスも同様で、「見習い」期間があり、その後、「一人前」に成長し、「指導者」として後継者を育成する義務と倫理観を持つことになる。

やまと絵を鑑賞しながら、過去の様々な作品を、作品として楽しむことも大切なことであるが、先達たちの偉業を現在に活かしてきたということも、今を生きる私達のキャリアの視点ではとても大切な示唆を与えてくれる。それは模倣ではなく、修行であるのであるから、自分が見習いたいと思う先輩諸氏の所作を観察し、恥じずに自ら試みるべきである。(次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年11月17日  竹内上人

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